その日の夕食はとても賑やかだった。
と言っても、野宿の途中で場所は河原、食事は保存食を火で炙ったもの、といういつもの風景と何ら変わらなかったが、『今日』という日付が特別なのだ。

9月21日、八戒の誕生日である。

悟空が『ハッピーバースデー』を歌って、野宿では開けないビールで乾杯し、食後にはどこに隠してあったのか月餅まで出てきた。

今は夜も更け、金色に光る月が中天にかかっている。
八戒は皆が眠るジープを離れ、河原の手頃な石に腰掛け、せせらぎに耳をすませていた。
手には杯、横には小さな瓶子。
小川の流れに月光が注ぎ、清廉な水に溶け、せせらぎの音となってまた天へ昇ってゆく…その様が目に見えそうな秋の夜更けだった。

じゃりっ、とそれを乱す音。
だが八戒は慌てもせずに杯を口元へと持って行く。
「こんな所で手酌酒か」
「三蔵…トイレですか?」
「…サルと一緒にすんじゃねぇ」
三蔵は八戒の腰掛けた石に背を預けるように座り、月を見上げた。
「おひとついかがです?」
「もらおう」
八戒の差し出した杯を受け取り、なみなみと次がれた酒に口をつける。
「明日は中秋ですね」
「ふん。独りで月見をしてたのか」
「ええ。良い月夜でしょう。先ほど月餅を食べて、思い出したんです。明日は天気が崩れそうですが」
「どうせ月見なんざしても、サルが芋だ、栗だ、団子だと騒ぐだけだろう」
「そういう賑やかなものもいいですよ。三蔵、知ってます?お酒に月を写して飲むと願い事が叶うそうです」
「くだらん。てめぇは願掛けでもしたいことがあるのか?」
ぐい、と空になった杯を八戒の方に突き出せば、八戒はふうわりと笑ってそこに酒を満たす。
「いいえ。むしろ…願い事なんて思いつかないほど今が満たされてます」
「満たされてる‐か」
「ええ」
八戒が軽く瓶子をふると、ちゃぷ…と小さな音がした。
近くの草むらからは虫の声。
「幸運とか不運とか、運命とか…少し前の自分なら、良いことがあったら次は悪いことが来ると考えてました」
「超が付くほどのネガティブ思考だな」
「そうですよねー。我が事ながら笑っちゃいます」
「で、今は」
「今は‐『良いことは連鎖する』です」
穏やかな笑みを浮かべ八戒は三蔵を見た。
応えるように三蔵の口元が柔らかくなる。
「あ、でも悪いことが起きたら『人生プラマイ0』と自分に言い聞かせてます」
「上等だ」


月はさらさらと野に降りそそぐ

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遅くなりましたが、八戒さん、happybirthday!!

本当にネタが全っ然なくて、朧気ながら話が浮かんだのが21日…orz

一つの杯を二人で回し飲み、というシチュエーションは個人的に好きです。

'10.09.24


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