寒さに震えて目が覚める。
部屋はまだ暗い。
隣の布団の三蔵も眠っている。
布団の中でしばらくじっと天井を見ていたが、ふと部屋の外に誰かの気配がすることに気がついた。

−誰だろ?

足音をたてないようにそっとドアまでいってゆっくり開ける。

「…八戒?」
「あれ、悟空。トイレですか?」
「ううん、八戒なんかあるの?」
廊下には八戒がいて、毛布にくるまったままカーテンを少し開けて外を見ていた。
夜なのに、窓の外はほんわりと明るい。
自分も八戒にならって窓を見てみるが、曇っていて外の様子は何もわからない。
八戒は俺の肩にも毛布を掛けてにっこり微笑んだ。
「音をね、聞いていたんです」
「おと?」
「ええ。雪の降る音です」
「音?雪に音なんてあるの?」
「ありますよ。ほら」
そう言って八戒は目を閉じる。
俺も同じように目を閉じた。







ぱさぱさぱさ

さら、さら、さら

ぽと
ぽと
ぽと


雪が屋根に積もる音。
窓に当たる音。
どこからか塊が落ちる音。

「ほんとだ」
「ね」
また、八戒はにっこり笑う。
ふと、電気もつけていないのに表情がはっきりわかる事に気がついた。
いくら目が良いと言われる俺だって、ここまで見えることはない。
「夜なのに明るいな」
「それは雪明かりですね」
「ゆきあかり…」
今覚えた言葉をもう一度繰り返す。

雪は真っ白で冷たくて。
静かで何もない。
そう思っていたのに。

もう一度雪の音を聞こうと耳をそばだてる。



さく
さくん、さくん、さくん

何かが雪を踏む音。
「足音がする」
「足音、ですか」
八戒も静かに外をうかがっている。


さくん、さくん
さくん、さくん、さくん

それは止まったりまた進んだりしながら近づいてきて、家のすぐ前までやってきた。

さくん、さくん

「野ウサギ、ですね」
ささやくように八戒が言う。
「うさぎ!?」

さくさくっ、さくさくっ、さくさくっ

足音はあっと言う間に遠ざかってしまった。俺の声にびっくりして逃げていったらしい。
「行っちゃった…」
「でも、この辺りにいるうさぎさんですからね。明日の朝、もしかしたら足跡が見つかるかもしれませんよ」
「そっか」
「さあ、もう寝ましょうか。すっかり冷えてしまいましたね」
「うん…やっぱ俺、トイレ」



朝。
目が覚めてすぐ、布団を跳ね退けるように起き上がる。
頬に触れる空気がきん、としてる。
急いでキッチンに行くと、八戒が朝飯の支度をしていた。
「はっかい!ウサギいた?」
「さあ、どうでしょう?」
ふんわりわらう八戒の前で、鍋がコトコトいっている。味噌汁を作っていたらしい。
「俺、見てくる!」
「あ、悟空。靴下ちゃんと履いてくださいね」
「おう!」
一回部屋に戻り、靴下を履いて走って玄関に向かう。
靴を爪先に引っ掛けるように履くと外に飛び出した。
昨日の夜降っていた雪はやんでいたけど、足首のところまで雪がつもっている。その上を走ると、靴の下でぎゅっぎゅっと雪が鳴る。
「おもしれー」
わざと音が鳴るように歩いてみる。真っ白い雪の上についた足跡は、変な形に歪んだ。
「そうだ、ウサギ、ウサギ」
昨日、八戒がいた窓のところまで壁にそって回ってみる。せめて、足跡だけでも見れたらいい。

「あ…」

窓の、雪のあたらない軒下に『ウサギ』がいた。
真っ赤な南天の目。緑色の葉っぱの耳。真っ白い雪でできた体。
それが体を寄せ合うように、ないしょ話をするように、4匹並んでいる。
「八戒が作ったんだよな…」
何回か悟浄の家に泊まりにきて、実は八戒が朝に弱いことを知った。
そんな八戒が、朝早く起きて雪でウサギを作ってくれたんだろうか。ウサギの足跡を楽しみに起きてくる自分のために。
「えへへ…」
なんだか嬉しくなる。
そっと頬を掻いていると

ぴしゃっ

「つめてっ!?」
首筋に何かがぶつかった。
「おーおー、子供らしく雪で遊んでんじゃん」
悟浄が後ろに立っている。手には雪でできたボール。さっきぶつけられたのはきっとそれだ。
「なにすんだよ、ごじょー!!」
「お、やるのか!?」
悟浄が手に持っていた雪を投げてくる。
負けずに自分も雪を固めて投げ返した。
「いてて!おめーどんだけ固く握ってんだよ」
「だって悟浄が悪い〜!」
悟浄が投げる雪は柔らかい。だから体に当たると壊れて服のあちこちに雪がつく。
「おりゃ!」
「負けないぞー!!」
二人で雪を投げ合ってると
「煩いぞ、てめぇら!!」
窓が開いて三蔵が怒鳴った。
「まったくガキが朝早くから騒ぎやがって」
「早くもねぇよな?」
「三蔵サマはお年だから寒いと起きれないのよ」
ジャキっと三蔵が銃を構える。
「きゃー!!」
「怒んなよさんぞー」
ドサドサと屋根から雪が落ちてくる。すぐ近くにいた俺たちはしっかり雪を被ってしまった。窓から顔を出していた三蔵の髪にもついてしまっている。

ピイピイ

屋根の上にはジープがいた。
「ジープ、こらー!」
「あんのチビ竜〜」
「…」
「はいはい、皆さん雪遊びはそこまでにして。朝ご飯の用意ができましたよ」
三蔵の後ろから八戒が呼びにきた。
「…俺は遊んでねぇぞ」
「朝飯!?今いくっ!」
駆け出そうとする俺を悟浄が呼び止める。
「ほら、ちゃんと雪払っていけ。付けたまま家入ると八戒に叱られっぞ」
「うん」
悟浄に背中の雪を払ってもらっていると、雲の隙間から日が射してきた。
「晴れたなー」
「おう。この分なら今日のうちに結構溶けそうだな」
射してくる日にきらきら光る雪。
「雪ってキレイだな…」
「昨日まで雪が怖いっつってたのはドコのダレだよ」
「だってさー」
「あー、冷えた、冷えた。家入って飯食うぞ」
「おう」
家に戻る前に、もう一度振り返って見る。

雪は冷たいだけじゃない。
白いだけじゃない。
静かなだけじゃない。

軒下で、真っ赤な目のうさぎたちが笑っている。

END.

-----------------
立春も過ぎたというのに雪の話。
でも『3years ago』の話、好きなんですよねー。

三蔵、悟空と一緒に客間で寝てますが、八戒を襲いたくてうずうずしてたに違いない。うん。


'10.02.22 UP

Powered by p-serve